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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)2668号 判決 1998年5月19日

原告

村松聖子

被告

窪田加苗

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五五万三九五九円及び内金五〇万三九五九円に対する平成六年一月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金三三〇万円及び内金三〇〇万円に対する平成六年一月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告窪田加苗運転の普通貨物自動車(被告東弘彰保有)が原告運転の足踏自転車に衝突して原告が負傷した事故につき、原告が、被告窪田加苗に対しては、民法七〇九条に基づき、被告東弘彰に対しては自賠法三条・民法七一五条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成六年一月一一日午後二時二七分頃

場所 大阪府寝屋川市池田三丁目七番一八号先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通貨物自動車(大阪四〇む二四〇三)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告窪田加苗(以下「被告窪田」という。)

右所有者 被告東弘彰(以下「被告東」という。)

事故車両二 足踏自転車(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

2  被告東の責任原因

(一) 被告東は、本件事故当時、被告車両の保有者であり、これを自己のために運行の用に供していたものである。

(二) 被告東は、自動車部品の売買、配送事業等を営んでおり、被告窪田は、その従業員であった。

本件事故は、被告窪田が右職務に従事している間に発生したものである。

3  損害の填補

原告は、本件事故に関する自賠責保険金として二四四万円の支払を受け、また、被告東から四二万円の支払を受けた(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件事故の態様(被告窪田の過失、原告の過失)

(原告の主張)

原告は、原告車両を運転し、本件横断歩道上を進行しようとしたところ、被告車両が原告車両の方に漫然と前進してきたため、被告車両との衝突を避けるため、進行方向に向かって左にハンドルを切ったが、避けきれず、衝突したものである。右衝突により、原告は横断歩道から外れた位置に転倒している。

(被告らの主張)

被告は、本件横断歩道にかかる程度の位置でいったん停止し、横断する歩行者が途切れるのを待っていたところ、歩行者が途切れたので、緩やかに発進した。ところが、原告が、徐行して動き出した被告車両の前を横断しようとして、被告車両の左後ろから回り込むような形で横断歩道から二メートルほど離れた位置に出てきたため、被告窪田も他の歩行者に気を取られたこともあって、原告の発見が遅れ、急制動を働かせる間もなく、被告車両が原告車両に接触した。両者は衝突ではなく、接触したという程度であったが、原告はバランスを崩したのか転倒をしたものである。

右のとおり、原告は、被告車両が横断者の横断を待つために停止していたことから、その動静に注意を向けることなく、斜めに横断を始め、被告車両が動き出しても、その前を横断することができると軽信して、被告車両の前方に回り込んだのであって、原告の過失は極めて大きいというべきである。したがって、本件においては、原告の過失割合は五割と考えるのが相当である。

2  原告の損害額

(原告の主張)

(一) 治療費 二四万七三三五円

(二) 入院付添費 六万五〇〇〇円

(三) 入院雑費 一万六九〇〇円

(四) 通院交通費 七九二〇円

(五) 通学費用 九五七〇円

(六) かつら代 三万六八七四円

(七) 入通院慰謝料 一二〇万円

(八) 後遺障害慰謝料 合計四三〇万円

後遺障害等級(一二級一四号)分 二三〇万円

逸失利益に代わる部分 二〇〇万円

(九) 弁護士費用 三〇万円

(被告らの主張)

不知。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(乙一、原告本人、被告窪田本人[後記認定に反する部分を除く])及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府寝屋川市池田三丁目七番一八号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と南東・北西方向の道路(以下、単に「東西道路」という。)とが交わる交差点(以下「本件交差点」という。)の南側にある横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)付近である。本件交差点においては、信号機による交通整理が行われている。南北道路の東側沿いには、本件横断際までガードレールが設置されている。

被告窪田は、平成六年一月一一日午後二時二七分頃、被告車両を運転し、東西道路の北西から南北道路の南方向に右折するに際し、歩行者が青信号に従い横断するのを認めたため、本件横断歩道にかかる程度の位置(別紙図面<4>地点付近)でいったん停止した。歩行者の横断が途切れたので、緩やかに発進したところ、同図面<5>の位置で、原告車両を運転している原告(同図面<ア>地点)に気付いた。原告は、南北道路を北方向に進んだ東側沿いにある店で買い物をした後、自宅(南北道路を南方向に進んだ西側沿いにある)に帰る途中であり、被告車両の前を横断しようとして、被告車両の左側から斜め横断の形で横断しようとしていた。被告窪田は、急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車両と原告車両は、同図面<×>地点において衝突した(衝突時の被告車両の位置は同図面<6>地点、原告車両の位置は同図面<イ>地点である。)。原告は、同図面<ウ>地点に転倒し、被告車両は同図面<7>地点に停止した。

以上のとおり認められる。この点、原告は、被告車両が原告車両の方に漫然と前進してきたため、被告車両との衝突を避けるため、進行方向に向かって左にハンドルを切ったが、避けきれず、衝突したものであると主張する。しかしながら、<1>足踏自転車の通常の速度からすると、右前方から進行してくる車両を発見した場合、ブレーキをかけて停止するという回避措置を採るのが一般的であると解されるし、<2>後記のとおり、原告の傷病名は原告の頭部にのみ集中していることからすると、本件衝突自体の物理的な衝撃はそれほど大きなものではなかったと考えられるところ、それにもかかわらず、原告が急性硬膜外血腫、外傷性くも膜下出血等の重大な傷害を負ったのは、右衝突が原告にとって不意のものであったため、十分に身構える間もなく転倒したことによると推認される。これらの点に照らすと、原告の右主張を採用することはできない。他に前認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告が本件交差点を右折するに際し、左方に対する注意を怠ったまま漫然と進行した過失のために起きたものであると認められる。他面、本件横断歩道を足踏自転車で横断する原告としても、東西道路から右折してくる車両につき相当の注意を払い自己の安全を守ることが期待されるところ、前記事故態様によれば、原告にも、右方の注視を欠いた点及び本件横断歩道の外に向けて斜めに横断した点において、不相当な面があったというべきである。したがって、本件においては、右一切の事情を斟酌し、一五パーセントの過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(原告の損害額)

1  証拠(甲二ないし四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告(昭和四八年五月八日生)は、本件事故当時、園田学園女子短期大学一回生であった。原告は、本件事故当日の平成六年一月一一日、救急車にて寝屋川ひかり病院に搬送されたが、意識状態の悪化を来たし、手術目的にて大阪府三島救命救急センター(以下「救急センター」という。)に紹介入院となった。救急センターにおいては、急性硬膜外血腫、頭部外傷Ⅳ型、頭蓋骨線状骨折、外傷性クモ膜下出血の傷害が認められ、直ちに緊急手術にて硬膜外血腫の除去が行われた。手術後、意識状態の改善が認められ、左動眼神経障害と左難聴を残した状態で、関西医科大学附属病院(以下「附属病院」という。)脳神経外科に転医した。結局、救急センターには、平成六年一月一一日から同月二三日まで一三日間入院した。

原告は、平成六年一月二四日から同年八月八日まで、附属病院に通院し、治療を受けた(実通院日数一一日)。当初、左動眼神経障害が残っていたが、徐々に軽快し、術部位の軽度脱毛を認める以外は無症状となった。

附属病院の笠井治文医師は、平成七年三月二七日をもって原告の症状が固定した旨の診断書を作成したが、同診断書によれば、自覚症状はなく、醜状障害として、頭部に一二センチメートル×三ミリメートルの醜状痕が残っているとされている。

自算会調査事務所は、原告の後遺障害につき、自陪責保険に用いられる後遺障害別等級表一二級一四号(女子の外貌に醜状を残すもの)に該当すると判断した。

2  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費 二四万七三三五円

原告は、本件事故による傷病の治療費として、二四万七三三五円を要したと認められる(甲五、八1ないし9)。

(二) 入院付添費 三万九〇〇〇円

原告は、救急センターに一三日間入院した(前認定事実)。救急センターの山本正人医師作成による診断書によれば、右期間につき付添看護を要したとは判断されていないが(甲二)、原告の当時の症状にかんがみ、付添費を一日あたり三〇〇〇円の限度で右一三日間にわたり認めるのが相当である。したがって、入院付添費は三万九〇〇〇円と算定される。

(三) 入院雑費 一万六九〇〇円

原告は、前認定によれば、救急センターに一三日間入院したから、右期間の入院雑費として、一日あたり一三〇〇円として合計一万六九〇〇円を要したと認められる。

(四) 通院交通費 七九二〇円

原告は、附属病院への通院交通費として、七九二〇円を要したと認められる(弁論の全趣旨)。

(五) 通学費用 九五七〇円

原告は、附属病院への通院期間中、園田学園女子短期大学の期末考査を受ける必要があったが、当時はまだ左動眼神経障害と左難聴を残した状態で体調不良であり、電車等の交通機関を利用して通学することが困難であったため、自家用車にて通学する必要があったと認められ、これにより、高速道路料金として九五七〇円を要したと認められる(甲七、弁論の全趣旨)。

(六) かつら代 三万六八七四円

原告は、術部位が脱毛状態であったため、かつらを必要とし、その代金として三万六八七四円を要したと認められる(甲六)。

(七) 入通院慰謝料 六〇万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は六〇万円が相当である。

(八) 後遺障害慰謝料 三〇〇万円

前認定事実によれば、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表一二級一四号(女子の外貌に醜状を残すもの)に該当するものというべきである。原告の右後遺障害の内容及び程度を考慮すると、右慰謝料は、三〇〇万円が相当である。

3  過失相殺後の金額 三三六万三九五九円

以上掲げた原告の損害額の合計は、三九五万七五九九円であるところ、前記一の次第でその一五パーセントを控除すると、三三六万三九五九円(一円未満切捨て)となる。

4  損害の填補分を控除後の損害額

原告は、本件事故に関する自賠責保険金として二四四万円の支払を受け、また、被告東から四二万円の支払を受けているから、これらを前記過失相殺後の金額三三六万三九五九円から控除すると、残額は五〇万三九五九円となる。

5  弁護士費用 五万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告の弁護士費用は五万円をもって相当と認める。なお、原告は、弁護士費用については、遅延損害金を求めていない。

6  まとめ

よって、原告の損害賠償請求権の元本金額は五五万三九五九円となる。

三  結論

以上の次第で、原告の請求は、被告ら各自に対し、五五万三九五九円及び内金五〇万三九五九円に対する本件事故日である平成六年一月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面 交通事故現場見取図

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